熊 クマ 対策


尾瀬 ガイドの眼

クマ対策(ツキノワグマ)

 

1,野生動物に対する入山者の現状

2,クマ対策としてよく言われること

3,クマに対してやってはいけないこと

4,クマへの対処方法

5,クマのフィールドサイン

6,クマと出会いやすい場所

7,クマとの遭遇あれこれ

8,クマ対策に有効なアイテム

9,銃刀法・軽犯罪法・迷惑防止条例

10,その他の危険な生物

11,武尊山の目次へ戻る

12,尾瀬の目次へ戻る

 

1,野生動物に対する入山者の現状

自然や環境問題がクローズアップされるにつれ、山へ来られる方が増加しております。それ自体よろしいのですが、野生動物に対して何の警戒心も持っていない方が増加傾向にあるのも事実。クマ以外にもシカやサルでさえ、自らの命を守るためなら人に襲い掛かってきますし、その殺傷能力を考えると下手に煽る行為はとても恐ろしくてできません。みなさん経験ないかもしれませんが、大きな角を生やしたニホンジカの群れが横を通り過ぎていく時の迫力は、凄まじいものがあります。奈良公園にいるせんべいをねだるシカなど比較になりません。山の賢人と言われ冷静沈着に見えるニホンカモシカでさえ、バッタリ遭遇すると「ブヒーブヒー」とうなり声をあげ猛烈に威嚇してきますし、サルなど岩の上から石を投げつけてくることさえあります。動物園にいる動物やペットと野生動物では、根本的に性格が異なるのです。
 シカについては襲いかかってくることはまずありませんが、サルについては行動が読めず危険ですから山で会っても絶対ちょっかいを出さないように。また、最近では川場村や片品村に本来生息しないはずのイノシシが増えていますので、武尊山に入るときはサル、クマだけでなくイノシシにもご注意願います。
 では、本題のクマに出会った時の対処方法、出会わないための方法について書いていきましょう。
 始めに申し上げておきますが、これなら間違いないといわれる究極の奥義など一つもございません。襲われる時は「なぜ、そのような状況で?」と言われ、襲われなかった時も「なぜ、そのような状況で?」と言われることが往々にしてあるからです。結局のところ、運次第ですかね…。それ以外、言葉が見つかりません。ただ、そう言ってしまっては話しが始まらない。
 以下の事項は一般的に言われる説と異なるものもございますが、私の経験と知り合いの話しをまとめ、極力襲われない方法を書いてみました。クマに襲われる確率は、ハチに指されたりヘビに噛まれたりするより遥かに低い。しかし、襲われた時の精神的肉体的ダメージは、日本の陸上生物の中でナンバーワンといっても過言ではないでしょう。

 皆様方がいたずらにクマに対して怯えることなく、安心して自然を満喫して頂ければ幸いです。
 
 

2,クマ対策としてよく言われること

(1)死んだふりをすれば大丈夫
実践した人に出会ったことがないにもかかわらず、全国規模で今なお広まっている都市伝説。「クマに会ったら死んだふりをすれば大丈夫」。まさにそれは口裂け女やトイレの花子さんのごとく発生源が謎であり、未だ伝説を具現化するチャレンジャーが現れないのがいけません。ここまでくると貞子か俊雄君クラスのホラー。「死んだふり」は都市で湧き起こっている伝説であり、山で語る人など一人もいないのです。
 だって、クマちゃんにフンガフンガ匂いを嗅がれたら、くすぐったくって動いちゃうでしょ!ありえませんから!むしろ、死んだまねをする度胸があるなら、一か八かでクマと戦うか猛ダッシュで逃げた方が助かる確率は高いでしょう。実践した方がいらっしゃいましたら、是非ご連絡願います。
 
(2)鈴をつけたり大声を出せばクマは逃げる
単独行動のクマであれば大声を出せば逃げる確率は高いでしょうが、そのクマが偶然にも手負いグマ(ハンターに撃たれるなど人から攻撃を受け傷を負ったクマ)であったりすると、襲ってくる可能性はあります。また、子連れのクマの場合、母グマが神経質になっているため大声を上げるなど刺激を与える行動は控えるべき。鈴に関しては人を危険と認識しないクマの場合、逃げることもないため効果は薄いですが、そうでないクマなら自ら逃げてくれます。しかし、どのタイプのクマであるのか分かりませんから、鈴を過信するのは非常に危険。鈴は周囲に音を鳴り響かせる分、近くまでクマが接近していても気づかないケースがあり、これが最大の欠点であることを付け加えておきます。
 また、登山者の中には、風のそよぐ音や川のせせらぎ、鳥のさえずりを楽しみに来られている方もいらっしゃいます。鈴の音がこれらを台無しにしてしまうことが多々ありますがら、TPOをわきまえご使用願います。
 
(3)クマを見たらすぐ逃げる
 逃げて助かった人もいれば襲われた人もいるため、この説はあってもいるし間違ってもいる。基本的には背中を見せて逃げてはならず、後ずさりしながら逃げよと言われますが、後ろ向きで歩ける場所が常にあるとも限りません。なお、背中を見せて逃げ切った人が実際にいます。
 
(4)人を見ればクマのほうから逃げる
 逃げるクマもいれば逃げないクマもいます。最近、新世代クマなどと呼ばれているタイプが逃げないクマでしょうか。新世代クマは造語でしょうが、ちょっと言葉が不適切な気がします。それこそシカやサル、イノシシにも新世代と付けなければなりませんからね。
 
(5)クマは臭覚と聴覚が発達しているので、クマの方が人間より早く気づく
 案外、ずぼらだったりしますし、天然ボケがちょっと入っているような。また、視力が悪いと言われているので気づかないケースが考えられます。
 
(6)木に登るとクマが登ってくるので危険
 人間の手のパワーと足のパワーには格段の差があり、足は手の5倍の力があります。それなら平地での戦いより樹上での戦いが有利であることは間違いありません。また、素手で殴るのと靴で蹴るのとでは人へのダメージも少ないし威力が伝わるというメリットがあります。クマにマウントを取られたら一発で終わり。
 
(7)火をつければクマは逃げる
 まず関係ないと思って下さい。
 
(8)クマよけスプレーを持っていれば恐いものなし
 道具は使いこなしてなんぼの世界。持っていても使えないケースが多々あります。
 
 箇条書きにしましたが上記の対策では万全と言えません。野生動物に対する俗説は数多くあるため、混乱してしまうのも仕方ないでしょう。
 (2)(4)(5)を信用してしまうのは、基本的にクマは臆病だから人を見たり音を出せば逃げるという考えからなのか?しかし、臆病だからこそ「窮鼠猫を噛む」で何をしでかすか分かりませんし、そこまで追い込むのは非常に危険。人に襲いかかってくるクマというのは特殊な状況下であるため、全ての常識が覆されてしまいます。
 子連れだから必ず襲いかかってくるというわけではなく、単独でも攻撃してきますし歯を剥き出しにして威嚇するも、突如逃げてしまうケースもあるのです(あくまで、その人の対応次第ですが)。
 (7)については、火があってもクマは寄ってきますし、なんら護身の役目を果たさないと考えた方が間違いありません。(8)のクマよけスプレーは、確かに効果はあるようです。しかし、3m以内までクマと接近しなければならないこと、風下に立っていては効果が薄く自分にかかってくる危険があります。さらにバッタリ出会ってしまったとき取り出しにくい等の理由から万能とはいえません。ただ、携帯しているにこしたことはないでしょう。
 
 

3,クマに対してやってはいけないこと

(1)レンズをクマに向けない
    クマにとって一番の脅威は人間の目。その何倍ものカメラやビデオのレンズを向けることは、クマにとって恐怖そのもの。
 
(2)フラッシュをたかない
    自然界ではカミナリだけ。突然、自分に向かって閃光が走ればクマだってビックリします。
 
(3)会っても騒がない
   (2)についてもあてはまりますが、ビックリすればクマのほうが通常逃げます。しかし、子連れのケースでは母グマの神経を逆なでするだけです。
 
(4)背中をむけたり、逃げないこと
   これをした人がターゲットになります。
 
(5)単独行動は極力避ける
    以前はそう思っていた時がありました。もちろん、いいんですよ。集団行動はね。しかし、集団がいいかというとそうでもありません。これは人間の集団心理が悪い方へ作用したケースの話。何はともあれ集団になると己に対するリスク管理が甘くなる。油断であったり慢心であったり。単独ならまずしない行動を集団だと平然と行ってしまう。思い当たる節はございませんか?これだけ人がいるのだから自分は襲われないだろう、まさか自分が、ちょっとくらいなら、その考え危険ですよ!
 集団で最も怖いのは、自分がどんなに正しいクマ対処法をとっていても、他人がやってはならない行動を取りクマをあおってしまったため被害に遭うケース。
 
 

4,クマへの対処方法

 最終的に襲われるか否かは運のみ。運が悪ければ何をしたって襲われる。経験則なぞ何も通用しないのが自然界。以下は、管理者の主観であり経験則なので、信用するか否かは皆様方にお任せいたします。
 
(1)睨み付けて、視線をはずさないこと。怯んだら襲われるリスクが高まります。
     武器も何も持っていないときにはこれしかありません。「睨み付けながらゆっくり後退してクマから遠ざかる」とはよく言われますが、もう気力・気合・気概と「気」の勝負。以下にも対処法を述べておりますが、この(1)がほぼ全てを語っていると思っていいくらい重要。場合によっては、クマが突然出てきて足がすくみ、何も出来ないままクマが逃げてくれたというケースもあるでしょう。しかし、この「揺るがない心」は決して忘れないで下さい。
 
(2)木に登る
    意外かもしれませんが有効です。クマは襲い掛かってくる時に、わざわざ木に登ってまで来やしませんし登る間があるなら、先に逃げるでしょう(こちらを危険と認識しないケース)。ただし、その場に適当な木があればの話しで、かつ、刃物やストック等をいつでも取りだせる状況にしておくこと。木に登れない人はもちろんダメですよ。
 
(3)刃物、鈴、笛、爆竹、クマ避けスプレーなどクマ対策グッズを携行する
   これを持つだけでも心にゆとりがもてます。物によりますが、金額的には笛、爆竹、鈴、刃物、クマ避けスプレーの順で高くなります。
 
(4)出没地点での朝夕の行動は控える。
   これを守れば第一関門クリアーといったところでしょうか。
 
(5)ワンタッチで開く傘をストック代わりに携行する。
   ガイドの人が襲い掛かって来られた時、とっさに手にしていた傘を広げた所逃げていったそうです。これはなかなかのアイデアですね。やはり突然物体がでかくなったらクマもたまげるのでしょうか。
 
(7)賑やかに歩く
    尾瀬だとひんしゅくを買いますが、他の山を歩いていて寂しく感じたり、危険を察知したら声を出すにかぎります。他に爆竹や鈴、笛などを使うのも有効。
 ただ、周りに人がいる時には迷惑になりますので、使用には注意してください。私が道なき道を歩いていたときのことですが、突然近くで爆竹が鳴りブッタマゲた経験あります。多分、やぶを歩く私をクマと勘違いしたのかもしれませんが…。かなり心臓に悪かったです。
 また、ある日のこと「フォーフォー」と奇妙な声がするので耳を傾けていると、どうも人間のよう。きっとクマがおっかなくて叫びながら歩いていたのでしょう。他人がそのようなことをしていると滑稽ですが、自分がしているのを聞かれたらかなり恥ずかしい。
 
(8) 気配を察知すること
   クマのフィールドサインを見逃さないことと、なんとなく「クマが出てきそう」という心のモヤモヤ感って実はとても大事。
 「まさか自分がクマに会うわけがない」と皆さん思っていることでしょう。私も初めはそうでした。しかし、ある日突然その日がやってくるかもしれないのです。「鈴さえつえければ大丈夫」「クマなんかいるわけないさ」「山は小走りで駆け抜けているから大丈夫」などと思ってはいませんか?そのときクマちゃんが物陰からジーとあなたを見ていたかもしれないのです。
 どうしたら事前にクマを察知する感覚を磨けるのか?クマの目線に立ってみることと、不自然で異質なものを察知する能力を身につけることです。例えば風も吹かない森でなぜか一カ所から葉や枝の擦れる音が聞こえてきたり一枚の葉だけが揺れ動いていたりすることがありますよね。逆に強い風が吹き抜ける森で、木々がこすれる音と異なる枝の折れる異質な音が聞こえてきたりする。常々これを意識していると、ゴルゴ13並に背後で起こる異変に気づくようになってきます。すると徐々に笹藪を歩く動物の足音が、シカなのかクマなのかという判別も可能になってくる。ある程度クマを知っている人なら私の言っていることに頷いてくれると思います。
   
(9) クマは執着心が強いと心得ておく
    エサを食べていたり樹皮を剥がしていたりと何かに集中しているときは、周りに注意が向かなくなっています。ひたすらおもちゃで遊び続ける保育園児と思っていただければ分かりやすいでしょう。冗談と思うかもしれませんが、笑っちゃうくらい近くにいたりするんですよ。したがって、集中しているときは、かなり接近していてもこちらに気づきもしませんし、気づいていても無視します(笑)。親子グマの場合でも、母親が食事に夢中になっている時は子グマをほったらかし。このような場合は、静かにその場を離れることで襲われずに済むケースがあります。危険なのは夢中になっているクマとバッティングしてしまった場合。皆さん、こんな経験ないでしょうか。何かに没頭していて突然背後から人に声をかけられビクッとしたことが。つまりクマがこの状況に陥ると、パニックになって突拍子もない行動に出ることがあるのです。
   
(10) クマは左利き
    クマが襲いかかってくる最悪の状況を想定してみましょう。格闘技の世界では左利きに対し、足を右前にして左フックを右手でガードするのが基本的防御方法。格闘技をやっていないと意味が分からないかもしれませんが、「左利き」を知っていて損はありません。クマが左利きと知っているハンターは、襲いかかって来られた時にこの習性を考慮して行動します。
 私にはそんなことできないというのであれば、頭を両手でかかえて地面にうずくまるのです。つまり、頭だけは守りなさいということ。背中や脇腹はザックがガードしてくれます。
 
 

5,クマのフィールドサイン 

   毎年コンスタントにクマと出会ったり巣穴に接近しておりますが、以下のようなフィールドサインも確認しております。意図的に写真を選定したわけではないのですが、尾根や沢沿い、湿地、急傾斜地の写真ばかりでした。写真は随時追加していく予定。
 
  くまはぎ   ウロとクマのフン   クマ棚
クマはぎ 2007.2.12
丸沼・加羅倉尾根
ミズナラの樹皮を剥がした痕。右の枝にぶら下がっているのは樹皮。爪痕もガッチリついています。
 
ウロとクマのフン 2008.5.3
尾瀬・広窪沢下流
越冬に利用したのか、休憩に利用したのか定かではありませんが、毛がビッシリ付いていました。樹種はカラマツ。
  クマ棚 2009.11.29
武尊山・玉原(古見満雄氏撮影)
落葉している11月から5月までの間が、クマ棚を観察するのに適しています。樹種はブナ。
 
  クマ棚   クマの爪痕   クマのフン
クマ棚 2010.4.30
尾瀬・ケイズル沢中流
このミズナラが登りやすいのか、枝がほとんど折られ貧相な樹形になっていました。
  クマの爪痕 2010.4.30
尾瀬・ケイズル沢中流
左の写真の木。大量の爪痕(写真中央)があるのが、お分かりいただけるでしょうか。
  クマのフン 2009.10.30
泙川林道
枯葉に埋もれていましたが、このようなフィールドサインを見逃してはいけません。
 
  クマの足痕   クマの足痕   クマの足痕
  クマの足跡 2010.5.2
尾瀬・カッキリ堀
初めて見る人には登山者の足跡と誤認してしまうかもしれません。しかし、靴底の跡はなく爪痕があります。
  クマの足跡 2006.5.4
尾瀬・セン沢の滝上流部
左の写真同様、人気のない所だと目立つ所をノンビリ歩いている。こんな時、クマに対し申し訳なく思ってしまう。
  クマの足跡 2005.5.3
尾瀬・伝之丞沢源頭部
何時間前、はたまた何分か前に歩いていたであろう新鮮な足跡。緊張感が一気に高まる。
 
  シダクロスズメバチの巣   シダクロスズメバチの巣   ツヤクロスズメバチの巣 
  シダクロスズメバチの巣 2010.8.28
尾瀬・沼尻川(八木沢新道)
ブナの朽ち木の下に巣があったらしく、ひっくり返されていました。
  シダクロスズメバチの巣 2010.8.28
尾瀬・沼尻川(八木沢新道)
左の拡大写真。巣がなくなり、行き場を失ったハチたちが周囲を飛んでいました。
  ツヤクロスズメバチの巣 2009.8.16
武尊山・玉原(古見満雄氏撮影)
湿原を掘り返して巣ごと食べてしまったよう。夜間に襲ったのではないかとのこと。
           
  ニホンミツバチの巣   ニホンミツバチの巣   ニホンミツバチの巣
  ニホンミツバチの巣 2010.8.22
武尊山・玉原(古見満雄氏撮影)
ハチの出入り口は数カ所あり、蜂蜜欲しさに樹皮を剥いだものと思われます。樹種はブナ。
  ニホンミツバチの巣 2010.8.22
武尊山・玉原(古見満雄氏撮影)
左の写真下側にあるハチの出入り口。この隙間から蜂蜜の匂いがしてくるのか、取り出そうと爪痕がたくさんついています。
  ニホンミツバチの巣 2010.8.29
武尊山・玉原(古見満雄氏撮影)
蜂蜜目当てに穴を広げたらしく、中に入って食べていたそう。越冬可能な程、中は広い空間があります。樹種はトチノキ。
           
  ニホンミツバチ   道標かじり痕    ウワミズザクラの枝折り 
  ニホンミツバチ 2010.8.29
武尊山・玉原(古見満雄氏撮影)
上のトチノキの巣をクマに襲撃されて、途方に暮れるニホンミツバチ。オオスズメバチにも襲撃されるので何だか気の毒。
  道標かじり痕 2009.5.30
武尊山・玉原(古見満雄氏撮影)
ペンキを塗って間もない道標がかじられた痕。塗料に含まれる成分の中には、クマに何らかの作用を及ぼすものがあるようです。
  ウワミズザクラの枝折り 2010.10.17
武尊山
実を食べるために枝を折った痕。5m弱の樹高のためか、クマ棚は作らず折った枝は下に落ちていました。
           
  クマの爪痕   ザゼンソウの食痕    巣穴 
  クマの爪痕 2001.11
武尊山
クマ棚が多数あるミズナラの幹にガッチリと爪痕が残っていました。

  ザゼンソウの食痕 2001.6
尾瀬ヶ原・六兵衛堀
ザゼンソウの実を食べるために掘った痕。ザゼンソウの群落地では、5,6月になると至る所で掘り返されています。
  巣穴 2002.11
三ヶ峰
写真のような穴を見つけたら、決して近寄らないで下さい。何が棲んでいるか分かりませんから。
           
  クマはぎブナ   クマはぎカエデ    ワナにかかったクマ 
  クマはぎ 2006.7.29
丸沼・四郎峠
3本のオオシラビソの樹皮が剥がされており、歯で内皮を削いだ痕が生々しく付いていました。
  クマはぎ 2000.8
日光白根山
カエデの樹液はメープルシロップの原料で甘みがあります。甘みを求め樹皮を剥いだのでしょうか。
  ワナにかかったクマ 2006.10
利根沼田(竹内成光氏撮影)
人が近くにいるにもかかわらず、檻の中で暴れることもなくリンゴを食べています。ある意味、凄いクマ。
           
  クマ         
  クマ 2004.7
尾瀬・沼尻川付近(杉原勇逸氏撮影)
龍宮小屋から沼尻川を渡ってすぐ。ミズバショウの実を食べていたそう。両耳をピンと立てて警戒している様子がわかります。
       
 
 

6,クマと出会いやすい場所

(1)夕方の沢沿い
 私が出会ったり、知り合いから聞いた中で一番遭遇する確率が高い時間帯と場所が夕方の沢沿い。特に夕まづめを狙って釣りをする人は注意が必要。釣りはどうしても気配を殺して行うし、沢の音でクマにも気づかれづらいし本人もわかりません。さらに沢は上流から風が吹くため、登りながらの釣りだと上流にいるクマに臭いが伝わらないのです。
 最悪なのは、自分の帰る方向にクマが逃げた時。これは、どうしようもありません。クマの気配がなくなるまで待っていればいいのですが、待っていると辺りが暗くなりどんどん危険が増します。こういうときは、一か八かということになりますが、極力クマの逃げ去ったコースを避け大回りして帰るしかありません。しかし、元来た道を外れて大きく迂回すると、自分の現在地がわからなくなり遭難の危険が増します。どんなに熟知している場所でも暗闇のヤブを歩くのは心細いですし、日没後になるとムササビがギャーと鳴いて上空を飛び交うのでかなりおっかない。明るいうちに下山するにこしたことはないでしょう。
 なお、朝方も活動時間ですので夕方同様、沢沿いは注意してください。
 
(2)急斜面
 片品村へ来て間もない頃は、自分が釣りをするエリアにクマがいるとは信じていませんでした。ホームグラウンドとしている沢でイワナ釣りをしていると、中州の砂地にクマらしき足跡があったのですが、まさかクマのものとはね〜というのが正直な気持ちでした。そのポイントの帰りはいつも大きく迂回する山道を登っていくのですが、面倒なので60度以上はある斜面を四つん這いになり必死に登っていきました。かなり斜面がきつくなり、赤土が露出しミズナラの大木がある所を通過したとき、根元に人間の頭程の穴があったのです。キツネかタヌキ、アナグマの穴かな?と思いましたが、余りに急斜面なので不思議に思い中を覗いてみました。
 いきなり『ウ〜!』という重低音のうなり声が聞こえたので、あせってすぐ上に登り様子を見ていると黒いモサモサの毛がついた大きな何かがニョキっとでてきました。『ウワ〜ヤベ〜』もう後ろを振り返る余裕もなく必死に斜面を登っていったのですが、かなりあせりましたね。
 
(3)鞍部
 私自身出会ったことはありませんが、ハンターの方は結構遭遇しているようです。おもしろい話しを1つしましょう。
 あるハンターが鉄砲をかついで急斜面を登りようやくなだらかな尾根に出た時、なんと反対側から登ったクマとバッタリ御対面してしまったそう。二人?ともビックリして動くこともできず、ひたすら見つめ会うこと十数秒。この至近距離では鉄砲を打つことも出来ず、まずいと思ったそうですがクマの方から逃げてくれたそうです。
 う〜ん、こんな経験したくないな。
 鞍部は人間だけでなく動物にとっても尾根を乗り越えるのに楽な場所なので出会ってしまうのでしょうが、クマが出るからといってわざわざ高い尾根伝いを選ぶ人などいませんから、こればかりは運に頼るしかないでしょう。ただ、尾根に上がる時は警戒するにこしたことはないです。
 ちなみに鞍部ではありませんが、武尊山の旭小屋ルートの尾根を歩いていたとき威嚇されたことがあります。辺りが暗くなって道が見えづらくなってきた時のこと、突然前方の左下笹藪から猛烈な勢いで登ってくる動物がいました。「ギャ−!」という凄いうなり声を何度もあげながら木をユサユサ揺らしているので、進むに進めず正体も分からないことから、一旦木に登って相手が逃げるのを待ちました。しかし、なかなか威嚇を止めず20分近く木に登り続けていたため、足がしびれてきて限界近し。我慢堪らずこちらも「ウォ〜〜!」と叫び返すと、しばらくして笹藪を下りていってくれました。その後は暗闇の武尊山を下山するはめになりましたが、こちらの方がむしろ怖かった。多分、正体はサルだったのではと思います。
 
 4)炭焼き窯跡
 意外かもしれませんがいるんですよね。片品村に限らずどこの村でも山奥に行くと苔むした炭焼き窯跡があります。クマ以外にタヌキやキツネ、アナグマがいることもあるのですが、中が真っ暗なのでうなり声をあげられても何だかわかりません。もしクマだとしたら危険なので近寄らない方がいいでしょう。昔作ったものはコケやシダ、枯葉で覆われ気づかず通り過ぎてしまう可能性があるため、スギ林でも油断しないように。
 
(5)笹薮
 出合い頭に襲われるケースの高いのが笹薮。特に日本海側に多いチシマザサは背丈が2m以上に伸びるので視界は効かないし、薮漕ぎ中は音がうるさくてクマも人間も相手に気づきません。こういう場所では大きな音をたてながら歩き、ちょっと足をとめて周囲に音がするか常に確かめる必要があります。
 以前、山菜採りをしていたらチシマザサをたっぷり食ったクマの糞があったので、緊張しながら歩いていたところ突然ガサガサと音が聞こえてきました。「ヤバイ!」と思いましたが、逃げるに逃げられないので腹をくくってその音の主を確認すると、必死になって山菜を採っている男の人を発見。一気に緊張感が失せ虚脱状態になってしまいましたが、よく考えるとこの男の人は全然ビックリしている様子もなく懸命に山菜を採り続けているではありませんか。クマがここにいるなんて想像だにしていないのでしょう。
 
(6)人家
 山の実が不作の年はやたら里に出てくるのですが、このような年は畑のトウモロコシやリンゴ、人家のカキを食べにやってきます。クマも越冬前で気が立っているのでしょうが、無秩序に畑仕事をしている人に襲いかかったりするのは深刻な問題です。
 トウモロコシ畑に毎晩来ては一柵ずつ平らげていくクマがいたそうですが、農家の人も複雑。クマに食べられることはそれなりにおいしいトウモロコシを作ったという証明でもあり誇りにもなりますが、春先から丹精込めて作ったものが全て失われてはどうしようもない。しかし、クマにすら食べてもらえなかった隣の畑の人も複雑だろう。
 リンゴ畑の場合はもっと深刻。商売用のリンゴを食べてしまうのも問題ですが、何年もかけて形作った枝が折られてしまうと今までの苦労が水の泡となるだけでなく、将来的な経済的利益の逸失もかなりの痛手。
 キャンプ場のゴミをあさりにクマが出没するという話しを聞きますが、片品村の場合、窓をぶち壊して建物に入ったケースもありましたからおっかない。でも、これは非常に稀なケース。
 人家近くだから安心ということは決してありません。人家近くの山際にあるマント植生の中に入れば、クマのフィールドサインはどこにでもあります。あるということは、もちろん来ているということ。「こんな所にも来ているのか!困ったな」と思うことはしょっちゅうです。
 
 

7,クマとの遭遇あれこれ・印象に残っているものをピックアップ

(1) 山仕事の帰り道 
 あれは8月下旬頃だったでしょうか。ちょっとしたバイトを頼まれ単独で山へ入ったときの下山時のこと。なんやかや荷物が増え重さは30kg以上になり、急斜面を下るときは荷物ごと落ちそうで冷や汗もの。何とか尾根から谷筋へ下り、沢へ着くと今度は小低木が行く手を遮り進みづらい。ようやく林床が笹に覆われたカラマツ林にたどり着き、沢のせせらぎを聞きながらのんびり歩いていると、背後から突然「ズザザザ〜〜!」という凄まじい音。振り返ると20m先にあるカラマツの上から何かが降りてくる。「は?なんだろな?」目を凝らすもすぐ笹薮にその物体が消える。その直後「フンガ〜!フンガ〜!」と鼻息の荒い生物が一直線に私めがけて突進してきたのです。一直線に来るということはイノシシか?いや、ここにイノシシは生息していないし木にも登らない。あれ?毛の色が黒だぞ!?
 目を凝らすとその黒い塊は歯を剥き出しにしながら突進して来るではありませんか!「クマだ!いるんだクマが」「ナタ忘れた…」「まさか、襲われちゃうのか…」様々な思考が頭をよぎるも30kg以上の荷物を背負っているので逃げようがない。「腹くくるしかない、やったる!」クマに対し半身の体勢に切り替え、鬼の形相で睨みつけ待ち構える(ここまで戦闘モードになったのは産まれて初めて)。
 すると、ほんの2m手前のところで、突如クマが右側に方向転換し沢の方へ逃げていきました。クマを確認してからわずか10秒程の出来事。
 これが初めてクマと出会った時の体験談。鮮烈デビューとなりました(笑)。
 
(2) 沢沿いの炭焼き窯跡 
 片品村にある小立沢は自宅前を流れていたため、よく沢釣りにでかけたものです。夕飯用のイワナとヤマメが釣れたので沢を下っていた時のこと。いつもなら気にしない炭焼き窯跡があったのですが、そのときは何か気になり中を覗きたい衝動に駆られる。覗いてみると突然「グゥゥォ〜」というドスの効いた声がしたのでぶったまげ、急いで土手の上に登る。何なんだ一体!?何がいるのか気になり、胸ポケットにある爆竹を取り出し放り込んでみようと企てる。再度近づくと足下に何かが見えたのでそこへ視線を向けると獣の足跡。うわ、デカ!何これ!タヌキじゃないじゃん。クマだ…。危ね〜爆竹放り込むところだった。クマとわかるや突然ビビリ始め、なるべく近寄らないよう炭焼き窯跡を遠巻きにして帰ることにしました。いつも通るときには何もいないのに、その日に限ってクマがいるとは。こわいこわい。未だに、なぜ覗きたくなったのかが分かりません。
 
(3) 釣りの最中に
 知り合いの話。根羽沢の上流の堰堤でテンカラをやっていたそう。テンカラ釣りとは振り出し竿を使った毛針釣りで夕暮れ時の虫が飛んでいるときにやるのがベスト。尺オーバーのイワナが何匹も釣れ、日も暮れかかって来たので帰ろうとしたら突如笹薮からクマが突進してきたそう。余りに突然のことで竿を片手に必死に逃げるも途中まで追いかけてきて、もう無理だと思って斜面を登ったら逃げたらしい。
 よくクマから逃げ切ったものです。ちなみにその方はクマ撃ちのハンター。いざとなるとハンターも逃げるんだなと感じました。気持ちは分かります。余りに突発的だと背中向けて逃げちゃうんですよ。
 
(4) クマが降ってきた
 知り合いの話。キノコ採りに山へ入っていたときのこと。ガスがかかって見通しの効かない森を歩いていると、遠く彼方から「バキッ!」「ボギッ!」という枝のへし折れる音が聞こえてきたそう。クマだというのは分かっていたそうですが場所がわからないので、さして気にもとめずキノコ探しに夢中になっていると、突然上から黒い塊が落ちてきたそう。何事が起きたのかとその黒い物体を見ると「慌てたクマ」。うゎ〜と声を出す間もなくクマの方が一気に森の奥へ逃げていったそう。怖いですな。クマもドングリの食事に夢中になっていたとき、突如人間がやってきてビックリしたのでしょう。
 
(5) スノーシュウにてトラバース中 1
 鳩待山荘を6時に出発し、小笠・笠ヶ岳と通過して坤六峠に到着したのが昼過ぎ。前日にアヤメ平・尾瀬ヶ原と遊び歩いたのがいけなかったのか、既に体力の限界が近づいていました。ここからまた西山まで登りかと考えるとウンザリでしたが、何度も休憩しつつ登り続ける。ようやく西栗沢源頭部稜線に到着すると、西面は雪が溶けて一部笹藪が露出していました。スノーシュウを外すのも面倒なので獣道が付いている辺りをスノーシュウで歩いていると、足下にポッカリ空いている穴が視界に一瞬入りました。急斜面だしネズコの大木もたくさんある。あやしい稜線だと思いつつ中を見たいという興味が湧き、180°向きを変えもう一度穴の方に戻り中を覗いてみました。「クゥー、キュー」えっ?何?「グゥオ〜〜!」親子グマの越冬穴かい…。やっちまった!再び180°向きを変えようとしましたが、スノーシュウは反転が苦手。しかも笹の急斜面。よろめきながらクマよけスプレーを出そうとするも両手にストックを持ちグローブをしていてスプレーが取り出せない。「なんちゅうこっちゃ、何のためにぶら下げているんだ…」逃げなければと前に進みましたが笹に引っかかりズッコケ転倒。穴からの距離は5mほどしかなかったため、かなり動揺し立ち上がれない。もう終わりか…。半分諦めながらも何とか笹に絡まるスノーシュウを引っ張り出し立ち上がる。再度穴のある方を振り返るとクマは出てきていない様子。夕方で子グマが外に出ると体温が下がるため、母グマが出るのを躊躇したのかもしれない。助かった。
 
(6) スノーシュウにてトラバース中 2
  富士見下から見晴まで行く途中のこと。写真ばかり撮っていたので予想以上に時間がかかってしまい、長沢と八木沢の間にある尾根に着いたのが2時過ぎ。地図を何度も見て確認したのですが時間がなくあせっていたのでしょう、どうも尾瀬ヶ原正面側に降りてしまったようで突如急斜面に出くわす。左右どちらを見ても状況は変わらないため下ることに。その後、オーバーハング気味の嫌な所に降りてしまったため、必然的にトラバースとなりました。日中であるにもかかわらずそこは凍結していたため、ピッケルを取り出し一歩一歩横向きに進む。ふとルート先を見ると10m先にポッカリ穴が空いており、穴の周囲に赤茶色の土が付いているではありませんか。うわ〜〜〜!あぶね〜〜〜!棲んでるじゃん!!しかし、穴の真上を横切らない限り安全なルートはなく、困り果ててしばし考えるも、ここに佇んでいてクマに襲いかかられたらひとたまりもない。一か八かで自分も後続の人も滑落しないよう深く蹴り込み下ることに決定。蹴り込むたびに巣穴に振動が響いて穴から出てくるのではと焦る。プチ滑落しつつも、なんとか危険ゾーンをクリアー。場所は、尾瀬ヶ原から見ると断崖のように見える辺りで、完全にスノーシュウではなくアイゼンの世界。いやいやスノーシュウで無茶しちゃいました。
 
(7) ダウンヒルを林道で楽しんでいると
  奈良俣ダムのサルメンエビネやヒメシャガ、キバナイカリソウを見に、林道をマウンテンバイクで走り回っていました。至仏山の旧登山道である狩小屋沢まで行った後、笠ヶ岳へ繋がるアリキノ沢の林道終点まで行った時には午後の4時過ぎ。6月ではありましたが、天候が不安定で疲れ切っていたこともあり戻ることに。途中、沢になっていたり砂地だったり岩がゴロゴロしていたりとかなりおもしろくスリリング。そのうち砂利道に変わり走りやすくなる。蛇行する林道を軽快に下っていたのですが、あるカーブを曲がった瞬間、黒い小さな塊が目に飛び込んできました。
子グマだ!あれ、もう1頭子グマがいる!ということは…。
 ススキで体が半分隠れていましたが、久しぶりに見る100kg超級の母グマを発見。さあどうする。もう20m手前だ、止まるか突っ込むか?状況から止まるのは危険と判断し(この間3秒ほど)、親子グマ3頭目がけて突っ込むことに。母グマと目が合いこちらに体を向け臨戦態勢に入ってきましたが、15m辺りで母グマが目をそらしたので、チャンスとばかり一気に加速。が…余りに突然の出来事であせっていたのかギアチェンジするのを忘れペダルが空回りしスピードが出ない。ピーンチ!後はよく覚えていません。かすかに右2m程に黒い塊が視界に入るも転倒が怖く、正面のみ見つめ必死に空転するペダルを漕ぎ続け逃げ切りました。
 
(8) 自宅 1
  夜中に玄関でドシン!と何かがぶつかる激しい音。酔っぱらいが家に来たのか?いや、そんな馬鹿な。片品村に酒好きが多いとはいえ、集落の一番山奥にあり沢が目の前にある私の家へ夜中来るほどの酒好きはいない。ふと、子グマが最近通学路に出ているという話を思い出し、耳を澄ましてみることに。沢の音でよく分からないのですが、何かがノッソリ歩いている気配がする。窓越しに聞こえ、怖くなって家中のカギを閉めましたよ。翌日、家の周りを見ると、クマの足跡が庭についていました。そのクマは3日後あっけなく仕留められクマ汁に。人づてに聞いた話しだと親グマが殺されたので人が恐いという考えも持たずに里へ下りてきてしまったのではとのこと。さすがに殺された子グマが不憫でなりませんでした。
 
(9) 自宅 2
  イワナの養殖場やキジ小屋の脇にある家に住んでいた時のこと(上とは異なり2カ所目)。ここには様々なほ乳類がやってきており、具体的に挙げるとヒメネズミ・アカネズミ・ジネズミ・カワネズミ・アズマモグラ・ノウサギ・イタチ・テン・タヌキ・キツネ・ニホンジカ・クマ。見なかったのはサル・カモシカ・アナグマくらいでしょうか。
 ある晩、車に忘れ物を取りに行くと、30m以上先でバキッ!ボキッという枝の折れる音。まさかクマ?まさかね〜、真っ暗闇で全然見えなかったため、すぐ家に入りました。翌日、音のした所へ行くと、まだオレンジ色に熟していない柿の木が折られており、クマの仕業と判明。
 何日か経った晩に、玄関で突然ドシン!と何かがぶつかる音。(8)の経験をしていたので、また来たのかとすぐ警戒モードに。自宅にいるのに何でビクビクしなきゃならないんだと腑に落ちなかったのですが、玄関が木製だったため突破されるのが恐ろしく、その晩は2階に寝ました。その後、そのクマは中学校の窓を割って給食室を荒らすなど散々悪さをした挙げ句、自宅近くに仕掛けられた罠にかかりクマ汁になってしまいました。撃たれる前に見に行ったのですが、80kg以上ある成獣で気が狂ったように暴れていました。自分が殺されるのが分かっているのでしょう。ちょっとかわいそうでしたが致し方なし。
 
(10) 尾瀬・六兵衛堀
  ガイドの勉強会で尾瀬へ行ったときのこと。そのときは檜枝岐小屋が宿泊先だったのですが、いつものごとく話し込んでしまったため夕方近くなり急いで木道を歩いていました。龍宮小屋を過ぎて沼尻川を渡った辺りでしょうか、ふと右手を見ると湿原奥の山際に黒い物体が移動している。距離にして1km先。あれクマじゃない?と言ってみんなに知らせると、お〜クマだクマだとその時はのんきに眺めていたのです。湿原を斜めに横切りながらこちらへ向かっているようでしたが、まさかね、みんなそう思っていました。
 しかし、500m→200m→100mと、どんどん近づいてくる。おいおいおい…六兵衛堀に差しかかったときには40m近くまで接近。笹藪の中を移動しているのかガサゴソ音が聞こえ、木道から15m程離れた所で顔を出す。すると、我々の目の前でウワミズザクラの実をうまそうに食べ始めたではありませんか!何という図々しさ!
 写真撮影しようが大声出そうがこちらをチラ見するだけで全く逃げる気配なし。それがクマのページにある写真。写真のごとく、その後軽やかに木道に飛び乗り律儀に右側通行し、我々を残して悠然と見晴へ向かっていきました。我々は進行方向にクマがいるため進むに進めずどんどん日が暮れていき、あの時は本当に困りました。ちなみに翌朝、下田代十字路先のブナ林で再度このクマに遭遇。全く逃げようとしない困ったちゃんです。
 これが1999年だったため、当時から逃げないクマが尾瀬にいたということになります。
 
(11) ガイド中、見晴にて
  上のクマと同一個体と思われますが、20人ほど連れて見晴から尾瀬沼へ向かうため、下田代十字路先のブナ林を歩いていたときのこと。木道左の笹藪でガソゴソ歩く生き物の気配。ここで登山者に大声出されてクマがパニックになっては堪らんと、一旦木道を降りてみんなに「すみませんが、先へ行って下さい、静かにね」と言って全員先に行かせました。その間私はその気配のする場所をひたすら注視し、何かあったときに備え体勢を整える。どうも木道に出てくる気配はなく、笹藪をうろついているよう。最後尾の添乗員が10m先まで行ったところで、クマが奥に行ったことを確認し行列に戻りました。結局、白砂峠に着いてからクマの話をしましたが、誰も気づかなかったよう。
 
(12) 車中から
  車からクマを眺めるというのは最も安全で楽な方法であり、凄くラッキーな気分になれますが、なかなか機会に恵まれません。過去2回ありましたが、1回は御池の駐車場からちょっと走ったブナ平と片品村の小金沢。いずれも夕方でした。
 
(13) モーカケの滝
  今はどうだか分かりませんが、当時は展望台から滝まで降りるルートがありました。紅葉も終盤を迎え誰一人いなかったため、滝の写真でも撮ろうと沢へ降りることに。時間は日没前の夕方。沢の右岸にある道を滝目指して歩いていると、突如右手から小さなタヌキのような小動物が私の足下を横切る。警戒心の無いタヌキだなとよく見ると、まん丸真っ黒。タヌキじゃない、子グマじゃん。ふと子グマの行き先に視線を向けると、斜面の笹藪にどでかい100kg超級の母グマが夢中で何かを食べている。距離にして5m以内。うわわわ〜〜、一番まずいパターン。沢の音で母グマも私も相手の存在に気づかなかったよう。あぶね〜。母グマを見つつ音を立てないよう静かに静かに戻りました。
 
(14) 草刈り中
  ガイド仲間の話。山岳会の関係で登山道整備のため草刈り機を使ってチシマザサを刈っていたところ、突然クマがやってきて睨み合いに。エンジンを全開にして勢いよく回転する刃を向けたら逃げていったそうですが、私はこの話を聞いてショックを受けました。なぜなら草刈り機の音はかなり遠くまで響きますし、刈っている最中は大音量。通常なら近づくはずがないのに、なぜ近寄ってきたのか?
 音を出せばクマは逃げるという常識が、一気に崩れ去りました。
 
(15) 尾瀬  2010.4.29〜5.2
 
(16) 武尊山 2010.10.17
 
 

8,クマ対策に有効なアイテム

(1)クマ避けスプレー
クマ避けスプレー
 いくつもの危険な場面に遭遇しました。そのとき、腰にはクマ避けスプレーをぶら下げていました。しかし、未だかつてその「危機的状況」の時にクマ避けスプレーを発射したことがありません。突発的なクマとの出会いのとき、人間、そう冷静ではいられないものです。ぶったまげてつんのめり、腰に手を回す余裕すらなかったり縮み上がったり…。できないんですよ。そこまでね。結構、登山や沢歩きって手がふさがっていたり足場が悪いものなんです。グローブしてたらスプレー持てません。ストックや釣り竿持っていればスプレー持てません。急斜面で足場を確保しながら歩いていたら、スプレー持てません。自転車に乗っていたらスプレー持てません。持てない状況の時に限って出会うんです。そんなものかもね。
 しかし、持っていた方が間違いなく安心できるし冷静に対処もできる。もう累計五本になりますが、一度も実践しないまま期限切れを迎えています。高いと思うか保険と考え安いと思うかはあなた次第。
 余談ですが、今までクマ避けスプレーを腰にぶら下げている登山者に会ったことがありません。やはりコストパフォーマンスが悪いからなのでしょうか?
 
(2)爆竹・笛
クマ 笛
 爆竹は昔から行われているクマ避けの方法ですが、他の登山者や釣り人、山菜キノコ採りの人までビックリさせてしまうのと、常にライターを携帯していなければならないのが難点。また、いざ使うときに湿気ていたりするのも困りもの。今は様々な笛が売っていますから、笛の方が間違いないでしょう。爆竹の威力は凄まじいのでいざという時役立ちますが、笛も爆竹も私は現在使っておりません。
 
(3)鈴
鈴
 クマ対策として一般的に勧められているのが、このクマ避けの鈴。個人的には鳥のさえずりや沢のせせらぎ、風の音がかき消されるのが嫌で使用しておりません。また、クマの気配を察知できなくなるので逆に怖いというのがある。むしろ、よく鈴なんぞ付けて登山しているなと関心してしまう。人を怖れないクマが増えていると聞きますが、尾瀬や日光のクマも鈴を付けていても逃げないタイプがいるとお考え下さい。
 
(4)ナタ・ナイフ
ナタ ナイフ
 山に住んでいる人にとっては当たり前のアイテムですが、普段から刃物を使用しておらず使いこなせる自信のない方は、下手に持たない方がいいと思います。格好だけで所持していると自分の手や足を切ってしまうなど痛い目に遭いますからね。また、下記のように銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)や軽犯罪法、迷惑防止条例の規定に抵触する可能性もあります。

 
 

9,銃刀法・軽犯罪法・迷惑防止条例

 銃刀法では、「業務その他正当な理由による場合を除いては、刃体の長さが6cmを超える刃物(一定の折りたたみ式ナイフは8cm超)を携帯してはならない」と規定し、違反者は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(法22条、法31条の18第3号、令37条、規則102条)。
 では、刃体の長さが6cm以下なら携帯することは可能なのか?
 軽犯罪法1条2号では、「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は、拘留又は科料に処する」と規定していることから刃体の長さは関係なく、正当な理由なしに刃物を隠して携帯していた場合は、軽犯罪法に抵触します。

 クマ対策用のナタ・ナイフとして刃体の長さは最低15cm必要であることを考えると、クマ対策用の刃物は銃刀法22条の「刃物」に該当し、業務以外の使用であることから原則として山へ携帯することが不可能となります。ここで「携帯」とは自宅以外の場所に刃物を持ち歩くことをいい、腰にぶら下げている場合の他ザックや車の中にあるだけで「携帯」にあたります。

 銃刀法24条の2では「警察官は、銃砲刀剣類等を携帯し、又は運搬していると疑うに足りる相当な理由のある者が、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して他人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれがあると認められる場合においては、銃砲刀剣類等であると疑われる物を提示させ、又はそれが隠されていると疑われる物を開示させて調べることができる。」と規定するとともに、携帯している者に対し銃砲刀剣類等を提出させて一時保管することができるとされています。つまり検査も没収もできるのです。条文での注意箇所は、銃砲刀剣類等の「等」の文字。銃砲刀剣類には一般の刃物は含まれませんが「等」とあると話は別でナタやナイフも含まれます(銃刀法5条の2第2項3号)。

 軽犯罪法にある「隠して携帯」とはザックに入れたり車内の工具箱に入れている場合が考えられますが、我々の感覚であれば雨具同様刃物は「しまっている」だけでも警察官によっては「隠し持っている」と解釈できるわけです。
 では「隠して」携帯せず、ザックの外に出しておけばよいのでしょうか?さすがにクマ対策用の大きな刃物を外に出したまま電車に乗る人はいないでしょうが、キーホルダーやツールナイフならあるかもしれません。
 飾り程度なら問題なさそうに感じますが、一般人が「飾り」だと思うような形状・態様で携帯し(客観的構成要件該当性)、携帯する者がそれを認識(構成要件的故意)していた場合には、「隠して」の軽犯罪法違反が成立する余地があると思われるので注意したほうがいいでしょう。
 また迷惑防止条例に「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、鉄パイプ、木刀、金属バット、刃物(銃刀法22条本文の規定により携帯を禁止される刃物を除く。)その他これらに類する物で、人の身体に重大な危害を加えるのに使用されるおそれがあるものを、通行人、入場者、乗客その他の公衆に対し、不安を覚えさせるような方法で、携帯してはならない。」(参考:神奈川県迷惑防止条例2条3項)とあるように銃刀法と軽犯罪法の規制対象外のものを規定していることから、むやみに外へ出しておくことは条例違反であり誤解を招く元といえます。ちなみに罰則は50万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(神奈川県迷惑防止条例15条4項)。

 それでは、刃物を山へ持って行くことは出来ないのでしょうか?そんなことはありません。「正当な理由」があればよいのです。この「正当な理由」についてですが、具体的に書くと悪用される可能性もあるため、社会通念上正当と認められる例を挙げますと釣りやキャンプ・登山のために携帯するケース。
 それなら何の問題もないじゃないかと考える向きもあるかもしれませんが、職務質問(警職法2条1項)する警察官や受ける場所により対応に差があるのが現状。登山中ならともかく行き帰りにおいて「正当な理由」を認めてもらうのは容易なことではありません。登山の帰りに寄り道して買い物をすれば、本人は下山後の帰路でも警察官によってはショッピング中と解釈する可能性もあります。最近はアウトドアグッズが巷にあふれ、登山者と一般者の区別のつかない人が多く、警察官が見誤るのも仕方ないと思います。そのような現状を考えると、自分なりに「正当な理由」がすぐ述べられるよう、そして証明できるよう万全の体制にしておく必要はありそうです。

 行政庁には公権力の行使にあたり一定の裁量権が認められておりますが、執行機関たる警察官の裁量行為に関しては、踰越や濫用が問題となってきます(軽犯罪法4条・警職法1条2項、同2条3項・刑訴198条1項、同199条1項、同213条、同217条、同218条1項・憲法33条、同35条)。
 職務質問についての判例(最判昭53.6.20)。
 「職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則」とするが、「所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にならない限り、許容される場合があると解すべき…。」しかし、「承諾なしに上着内ポケットに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査する行為は、プライバシー侵害の程度の高い行為であり、捜索に類するもの。そのような職務質問に附随する所持品検査は許容限度を逸脱したもの」と判示し違法としています。したがって、例えば本人の承諾なくザックやウエストポーチに手を入れ物を捜す行為は、上記判例に従えば違法。なお、判例では違法の程度はわずかとして証拠能力を肯定し第一審に差し戻しています。

 何かややこしい話になってきましたね。やはり山に刃物を持って行ってはダメなの?と不安に思われる方もいるかもしれませんが、遭難時やクマ対策を考えると必須アイテム。個人的見解ですが、東京など人混みの多い箇所を公共交通機関を利用して移動する場合は、あきらめてクマよけの鈴・笛・クマ避けスプレー(最判平21.3.26)のみを携行し、刃物は控えることを勧めます。携帯していて職務質問を受け、法律論をかざそうものなら今のご時世1〜2時間で済むとは思えません。それでもというのなら、車で山へ行くしかないでしょう。さらに検問等の少ない有料道路に即乗る。
 車の移動で注意すべきは、釣りや登山等のアウトドアをしている人たちに多い刃物の積みっぱなし。確かに釣りや登山は正当な理由になりますが、それら以外のときに職務質問され銃刀法・軽犯罪法違反と言われたら反論のしようがありません。今日から積みっぱなしは止めましょう。

 職務質問を受け押し問答の末に解放されるも集合時間に遅れたり山小屋に到着できなかったり、署に連行され供述調書・指紋・写真をとられ登山中止となっては泣くに泣けません。今の時代、都会で刃物を携帯するということは、正当な理由が認められないリスクを背負っているということ。
 山の場合はどうなるのか。山なら刃物を手に持って登山しようが構わないのでしょうか?もちろん、そんなことはありません。尾瀬のように登山者の多い山の場合、腰に刃物をぶら下げるのは控えるべきだと考えます。銃刀法・軽犯罪法・迷惑防止条例に抵触するなど法律論を持ち出すまでもなくマナーの問題。刃物を腰に差したりザックからすぐ取り出せる体勢にできるのは、人と行き交うこともない場所だけにしておくのが望ましいです。
 
参考サイト・ページ
警視庁:刃物の話
警視庁:銃刀法改正  刃渡り5.5cm以上の剣が所持禁止(タガーナイフ等)
銃砲刀剣類所持等取締法
銃砲刀剣類所持等取締法施行令
銃砲刀剣類所持等取締法施行規則
軽犯罪法
軽犯罪法第1条2項の「正当な理由」について(判例タイムズ1296号141頁以下)
警察官職務執行法
警察手帳規則
刑事訴訟法
日本国憲法
神奈川県迷惑防止条例
 
 
 

10,その他の危険な生物

  山についてはクマより恐ろしい生物がいます。それは、ハチやヘビ。
 アブはまだ耐えられるけれどもハチに刺されれば死ぬ確率はクマよりよっぽど高いのです。ハチ対策も難しい面はありますが、基本的に黒色を避けるべきでしょう。偶然が重なりハチの襲撃を受けても狙われるのは黒い服を着ている人や帽子をかぶっていない人のようです。
 勇気のある人は山へ行って試してみればよく分かりますが、アブやハチは黒色に集まってきます。理由はわかりませんが、現実に寄ってくるので極力、帽子をかぶり、黒色の衣服やリュックは避けてください。
 ヘビについては私自身、具体的な対策方法がわかりません。ただ、用をたしにやぶへ入る時は周りを必ず確認してからにしてください。実際、しゃがんだ所にマムシがいて○○○を噛まれ、死んでしまった人もいますから。そんな死に方みなさん絶対したくないですよね。
 その他、ヤマビル、マダニ、ムカデ、蛾の幼虫などの有害生物は至る所にいます。雑誌や本には半ズボンで気軽に登山している写真が掲載されておりますが、決して半ズボンで山へ出かけないで下さい。
 さて、やられてしまった場合の対処法ですが、下手にいじらず我慢するのが一番早く痛みが治まり後遺症も少ないように感じます。いじると余計腫れ上がったりかゆみが抜けなかったりと、後悔することが多いです。
ハチノック