尾瀬(尾瀬ケ原、尾瀬沼、至仏山等)を中心に自然情報を提供しております  

尾瀬 ガイドの眼

 

 

尾瀬の各ルートごとの自然解説をしております。

尾瀬ヶ原

 

鳩待峠〜山ノ鼻

中田代

上田代 名前の由来

 景鶴山は頂上付近は急な崖になっているが、中腹は広々とした草原状となっています。この辺りを横切ることができるのですが、横切ることを「へえずる」と土地の言葉で言っており、陸軍測量部の役人に山名を聞かれた土地の人が「へえずる」と答えてしまったので、「景鶴山」と記入されてしまったそうです。また、頂上の急な崖を登るのに「はいずって」登ったので、、それが転化して「ケイヅル」になったとも言われております。
 八海山(背中アブリ山)は上述同様、山を聞かれた土地の人が、遥か遠くにそびえ立つ越後の八海山を聞いているのだと思い、「八海山」と答えてしまったため。別名の背中アブリ山は、背中アブリ田代が由来の元で、この湿原は南斜面に位置していることから、ここに来ると背中があぶられる程熱かったからだそうです。

コース案内

 中田代は上ノ大堀川と沼尻川との間の湿原をさし、ワタスゲやニコウキスゲの群落する湿原として有名です。
 8月に入ると、上ノ大堀川は下の写真のように藻で被い尽くされてしまいます。

スギナモ

 これはスギナモといって水草の一種で、水面からニョキニョキと立ち上がっている姿はなかなかユーモラス。でも、これが繁茂してしまうとイワナの泳いでいる姿が見られなくなるので、ちょっと残念です。
 上ノ大堀川を渡ると右手に小高い丘が湿原に迫ってきているはずです。これは牛首といって、この先の休憩所のある三叉路から眺めると、「牛の首の出っ張った骨」のように見えることから名付けられたそうです。現在では三叉路のことを牛首という名だと思ってらっしゃる方も多いのですが、じつは牛首とはこの小高い丘のことを指すのです。この牛首は、アヤメ平方面からの溶岩が押し出され侵食等を受けた結果、現在の形になったといわれています。当時は真っ赤に燃え上がるような溶岩が流れ込んでいたんでしょうね。
 牛首と反対の左側はヤチダモの侵入が著しいため、どうも寂し気な湿原の印象を受けますが、6月中旬にはモコモコのワタスゲの白い綿毛がこの場所を一面に被い尽くします。晴れている時は白い絨毯を敷き詰めたようで遠くからでもはっきり認識できるのですが、この頃は梅雨のため雨だったりすると「濡れ犬」のようで、とってもみじめ!
 
フワフワして風になびくワタスゲもいいのですが、みじめな濡れ犬状態のワタスゲは憂いのある雰囲気を醸し出しているがゆえ、なぜか気になって仕方がありません。辛いことがあるなら一言相談しろよ!と言いたくなってしまう…。それと、ワタスゲを見ると、耳掻きに使えないかな〜と思ったことはありませんか?

 山ノ鼻から牛首の三叉路まで45分。ここは竜宮方面とヨッピの吊り橋方面の分岐になるため、常に人でごった返しています。当たり前の風景であるがゆえ、ここに人がいないときは本当に嬉しい。尾瀬の本来の姿を見たいのでしたら是非、このような風景の見られるオフシーズンをお勧めします。尾瀬の魅力は高山植物やトンボ、チョウの豊富さではなく、『人のいない木道を歩く』これでしょう。ガイドの仕事をしているとお客さんに、「こういう所で仕事ができていいですね」と度々言われますが、答える時は笑ってごまかします。でも実際は、行き交う人を考慮しての案内が中心なので、正直神経がすり減ります。私が尾瀬にプライベートでリラックスするために来る時は、人のいないとき。人であふれるミズバショウやニッコウキスゲのシーズンをお客さんにはあまり勧めません。なぜなら人のいないときが一番好きだし、最も尾瀬が本来の美しさを見せてくれるから。
 「オーバーユース回避のための平日分散化」という堅苦しい意味でなく、平日が単純に『いい!』ので、みなさんにも紅葉シーズン前の閑散期の入山をお勧めします。
 さて、話しを戻して分岐から先の案内をいたしましょう。

東電小屋方面(ヨッピの吊り橋)

 牛首から東電小屋方面へ向かうと下ノ大堀川の橋が出てきますが、この辺りはヨッピ川の氾濫原であるため拠水林が形成されています。下の写真は橋の手前にあるものですが、ヤチダモが生育している様子は熱帯地方のジャングルのよう。これは河川の氾濫が繰り返されるため真直ぐ育たず、小低木化してしまったためです。
 氾濫原であるがゆえ拠水林周辺はニッコウキスゲが群生していますし、拠水林内部ではヒオウギアヤメやタチカメバソウ、クロバナロウゲ、ワレモコウが多く見られます。

ヤチダモ群落

 ところで、ヨッピ川とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、「ヨッピ」とは、アイヌ語で集まるという意味。その名の通り、滝ノ沢や下ノ大堀川等幾つもの沢がこの辺りで合流しているのです。
 下ノ大堀川の手前からヨッピの吊り橋までは、木道も整備されているので歩き易いのですが高くなっているので転落しないよう注意してください。では、なぜ木道が高くなっているのか?その理由はこのエリアが氾濫原のため、しょっ中木道が流されてしまうからなのです。相当頑丈な作りになってはいるのですが、やはり台風などがくるとガタガタになってしまい通行不可になることもあります。流された木道や破壊された木道を見ると、改めて自然の恐ろしさを実感します。くれぐれも台風接近時の入山は控えてくださいね。

 ヨッピの吊り橋は名前に惹かれてなのか、みなさん興味があるようで要望の多い場所です。私からすると吊り橋とはいっても昔のようなヤバイものではなく、りっぱな鉄骨造りなのでそれ程お勧めするような所とは思えませんし、ちょっと揺れる程度の物です。ほんとうにヤバイ橋を渡りたいのでしたら片品村の沢に幾つもありますので案内しましょうか?でも、命の保証はできませんよ。保険に入ってますか?なんせ、立ち入り禁止の橋ばかりですから…。
 ヨッピの吊り橋に関しては夢を持たせるため写真は掲載しないでおきましょう。

竜宮方面

 一般の方にとって、ヤチヤナギの繁殖するこのルートは始め退屈するかもしれませんが、季節ごとに美しいものを見ることが出来ます。分岐直後からはの高層湿原特有のミズゴケ〜ツルコケモモ群落があり、可愛らしいツルコケモモの花や果実を見ることができるでしょう。
 さらにこのエリアは6月中旬頃、すばらしい山の彩りを提供してくれます。

一番高い山は景鶴山ですが、注目して頂きたいのは山裾の紫色の帯。なぜ、前後の山の木には新芽が出ているのに、ここだけ一列の帯が出来上がっているのか?
 この紫色の帯の正体はダケカンバの梢で、周辺のブナやシラカバは一ヶ月前に芽吹いているため写真のように摩訶不思議な紫色の帯が出現するのです。
 くやしいことにガイド中、お客さんを連れているのも忘れて見入っていたところ見事木道を踏み外し湿原に転落してしまいました。だって綺麗なんだもんな〜。お客さんには湿原に足を踏み入れないように注意したばかりなのに。こういうことはやってはいけない見本ですと適当にごまかしましたが、お客さんにサルも木から落ちるんだとおもいっきり笑われてしまいました。情けなし、無念…。
 下ノ大堀川の橋を渡ったすぐ先には撮影スポットとして有名なミズバショウ、ニコウキスゲの群落地があります。パンフレットなどで、至仏山を背景にもってきている景色を見たことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。左へ迂回する木道を行くとその場所に着きますが、どうもここは記念撮影をするには木道の位置がよくありません。一番いいのはどんずまりになる小さな休憩場所くらいなので、そこまで行った方がいいでしょう。ここはどうも、カメラマンが陣取っているため近付きがたいのですが、行っちゃいましょう。平然と三脚を立てて陣取っているのも問題があるように感じますし、一言添えれば何も言わないはずです。
 この場所はミズバショウやニコウキスゲばかり注目されますが、シーズンを通して様々な植物が花を咲かせます。ヒオウギアヤメやワレモコウ、オオバセンキュウ、オオニガナなど色とりどりの景色が堪能できるのです。また、紅葉時期には、ナナカマドやヤマウルシも多いため、池塘に映る紅葉の景色はここが一番かもしれません。ちなみに、この辺りの池塘にもイモリ君はいっぱいいます。ヤチスゲをモグモグ食っている姿が見られるかもしれませんよ。意外と可愛いです。

 撮影スポットを過ぎると、いよいよ竜宮。竜宮には入口と出口の両方に行ける木道があるのですが、知らない人はどうも通り過ぎてしまうようです。とくに雪代の出る早春は迫力があるので見ていただきたく思います。6月中は透明度も高いので、イワナが泳いでいる姿を見つけることができるかもしれません。ちなみに10cm程の小魚がいつも泳いでいますが、これはアブラハヤでイワナではありません。ほとんどイワナのエサになってしまうのでしょうが、繁殖力は旺盛です。アブラハヤの仲間にウグイがいますが、ウグイは尾瀬にはいません。日本の在来種の中で、最も酸性に強い魚ではありますが、寒さに弱いためアブラハヤしか生き残れないのでしょう。ただ、アブラハヤは寒さに強いとはいうものの、もともと尾瀬に棲んでいたかのかはよくわかりません。古くから尾瀬では放流がなされているので。
 話しが前後しますが竜宮へ行く手前に小川があり、ここでおかしな問題が生じています。それは、登山者が川の中にコインを投げ入れるというもの。群れで泳いでいるアブラハヤがありがたいんだかなんだか分かりませんが、入れる人が後を断ちません。しかも投げ入れるのは5円や10円などしけたもの。どうせなら万札を投げてみろと言いたくなりますが、トイレのお金もけちる尾瀬の入山者では無理でしょう。なんで川にコインを投げるのを惜しまないのにトイレ使用料を払わないのか?人間ってララ〜ラ〜ララララ〜ラ〜。
 なんとか辿り着いた竜宮十字路。ここは、湧き水が豊富に流れていることと地形状の理由から、周辺には生育しない植物を多く見かけます。また、竜宮小屋のベンチ脇には尾瀬原産オゼザサが生育していますし、夏になると、ゲンジボタルやヘイケボタルが見られます。
 何気なく十字路で休憩しているみなさん。もう一度、テラスのまわりを観察してみてはいかがでしょうか。もしかしたら、一生に一度しか見られない珍しい花が咲いているかもしれませんよ。

竜宮〜ヨッピの吊り橋

 このルートは沼尻川の拠水林沿いを歩くことになりますが、これといった貴重な花は群落しておりません。あえて言うとすれば、オオジシギが必ずやってくる地点といえますか。では、このルートの見どころとは、一体何なのでしょうか?
 それは、人が畑でも作ったかのように見えるヤマドリゼンマイの群落です。
 このヤマドリゼンマイは、近年ヤチヤナギと同様湿原に急速に増えている植物で、シダ植物の一種。湿原の乾燥化が増殖の最も大きな原因といわれております。しかし、ヤマドリゼンマイは名前の通りゼンマイの仲間のため昔は地元の人が採りに来ていたそうで、それを採らなくなったがゆえ増えたとも言われています。
 ヤマドリゼンマイが増殖することの問題は、地中深くに根付くことと葉を放射状に伸ばすことから、他の植物の生育を阻害する要因となっていることです。木道を歩きながら観察していただければお分かりいただけると思いますが、ヤマドリゼンマイの群落内には花がほとんど咲いていないはず。
 ただ、散発的な群落を形成している状況の通り、ヤマドリゼンマイにも適応地があり群落地を見るとほとんどが湿原の斜面伝いに生えております。つまりヤマドリゼンマイにとっての適応地とは、水はけの良い傾斜部分なのです。
 乾燥化が原因なのか、採取しなくなったのが原因なのか定かではありませんが、近年の尾瀬ヶ原はヤマドリゼンマイにとって住み良い環境になりつつあるのは確かでしょう。景観的には新緑期は美しいが夏場はむさ苦しいと言ったところ。
 あえて自然に手を加えないことを前提としている尾瀬にあっては、このヤマドリゼンマイのある湿原を尾瀬の景観の一つとして捉えるしか仕方がないのかもしれませんね。でも、ちょっと増え過ぎのように感じてなりません。

中田代
下田代
赤田代
長沢新道
八木沢道
段小屋坂
 
 

 

 

 

   
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